第16回 青森県将棋
グランドチャンピオン戦

今年度出場選手

             
  伊東 恒紀 五段      船橋 隆一 四段      田村 純也 五段       鈴木 雄貴 五段
 グランドチャンピオン     有段者選手権者        アマ名人            県王将
   アマ竜王          赤旗名人          支部名人           朝日アマ@
                ランキング1位       ランキング2位        ランキング3位

             
  工藤 俊介 五段      木村孝太郎 五段      成田 豊文 四段       和田  聡 五段
     県名人          朝日アマA       赤旗名人戦 準優勝      アマ名人戦準優勝
   ランキング4位       ランキング5位      ランキング6位        ランキング7位
                              

<第16回 青森県将棋 グランドチャンピオン戦> 棋譜集No1 1回戦-1
 先手 木村 孝太郎 五段
 vs 後手 船橋 隆一 四段 戦

この将棋はここが凄い! → 「秒読みの中の詰むや詰まざるや!」

 「囲いは先手金駒4枚、後手金駒1枚!図」  「はたして先手玉は詰むだろうか?図」
       
 第1回は詰め将棋の問題です。
 「囲いは先手金駒4枚、後手金駒1枚!図」は囲いの金駒数に3枚もの差がある。ここから、先手は金駒の多さを頼りに▲4五銀左と勝負に出た。以下、△6五桂、▲6八玉、△4五銀、▲同銀、△6六角、▲同金、△3八銀、▲2八飛、△4七銀成、▲6五金、△6七歩、▲同玉、△6四香、▲5五角、△6五香、▲6六歩、△6四銀、▲3三角成、△同桂、▲3四銀で「はたして先手玉は詰むのだろうか?図」。二十手後の囲いは先手金駒1枚、後手金駒0枚で金駒数の差は1枚。随分と後手が差をつめている。そして、何より手番を握っているのが大きい。ただ、自陣の金駒0枚。チャンスは一瞬だけ。後手は先手玉を詰まさなければならない。
 さて、「はたして先手玉は詰むのだろうか?図」が詰め将棋の問題図です。どうやって詰ましに行くのか?どういう変化があるのか?そして、はたして先手玉は詰むのだろうか?考えてみてください。

  「秒読みの中、勝負手を繰り出す!図」  「秒読みの中、29手詰めを読み切った!図」
     
 ちなみに以下の攻防はすべて秒読みの中で行われている。
 「はたして先手玉は詰むのだろうか?図」から、△6六香、▲同玉、△6五銀!で、「秒読みの中、勝負手を繰り出す!図」。全く詰みが見えない局面から、△6五銀!と後手は勝負手を繰り出した。秒読みの中、よくもまあこんな手が見えるものだ。▲6五同玉は△5四金で危ないと見た先手は、▲6七玉と逃げた。以下、△4九角、▲5八桂、△同角成、▲同飛、△5五桂、▲6八玉、△6七金、▲7九玉、△8九歩成、▲同玉、△7八金、▲同玉、△6六桂、▲7九玉、△8八金、▲同飛、△同桂成、▲同玉、△7八飛、▲9七玉、△9六歩で「秒読みの中、29手詰めを読み切った!図」。ここで、先手が投了し、134手で後手の勝ちとなった。以下、▲9六同玉、△9八飛成、▲9七合駒、△8七飛成までピッタリの詰み。迫力の攻防をぜひ確認していただきたい。
 調べてみると、△6五銀!に▲6五同玉としないと詰んでしまうようだ。以下、△5四金、▲5六玉、△4六金、▲6七玉、△5七成銀、▲7七玉、△7六歩、▲同玉、△8五角、▲7七玉、△6七角成、▲同金、△同成銀、▲同玉、△8七飛成、▲7七金で、先手凌いでいる。途中、詰む変化がたくさんあるが、ぎりぎり残っているようだ。ただ、こんな変化を読み切らないと勝ちにならない将棋をお二人は指しているということにただただ感嘆してしまう。

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<第16回 青森県将棋 グランドチャンピオン戦> 棋譜集No2 1回戦-2
 先手 鈴木 雄貴 五段 vs 後手 和田  聡 五段 戦


この将棋はここが凄い! → 「急所を執拗に攻め立て、堂々と受けて立つ!」

  「ここから後手は手を作っていく!図」   「後手が欲しいのはどの駒だろうか?図」
       
 「ここから後手は手を作っていく!図」から、△3六歩!、▲同歩、△5五角、▲3七角、△同角成、▲同桂、△3四銀、▲5八銀、△1四歩!、▲同歩、△同香!、▲同香、△1七角、▲4八玉、△4四角成、▲1三香成、△3五歩!、▲2六角、△2四歩、▲1四成香、△2五歩、▲3五角、△同銀、▲同歩で、「後手が欲しいのはどの駒だろうか?図」。後手は△3六歩!から先手の守りの桂馬を飛ばせることができた。美濃囲いは桂馬が飛ぶと攻撃力が上がるが、守備力は下がる。端と桂頭の二つの急所が生じるからだ。以下、△1四歩!から端で馬を作り、△3五歩!から桂頭を攻めた。
 △1四同香!もハッとする一手だ。先手と後手では端香の価値が違う。中住まいの後手玉にとって左右の端香はいつでも攻撃に使える駒だが、美濃囲いの先手にとって右香は盤上にいてもらわないと困る守備駒。だから、△1四同香!のただ捨てが成立している。この後も後手は何度もハッとする一手を繰り出していく。そして、先手はそれらをグッと受け止める。ここからしばらくそういう攻防が続いていく。
 では、「後手が欲しいのはどの駒だろうか?図」からの後手からの三手を考えていただきたい。どうでしょうか?

  「後手がどうしても欲しい駒は桂馬!図」 「後手の急所の攻めを先手は受け切った!図」
     
 「後手が欲しいのはどの駒だろうか?図」から、△9四香!、▲同飛、△7六歩!で「後手がどうしても欲しい駒は桂馬!図」。後手は1筋だけでなく、9筋の香車も捨て、攻め駒として活用した。後手陣は金銀が前に出ていないので、桂香の活用が必要だ。△7六歩!で桂馬が手に入れ、△3六桂が狙いとなる。さらに、△7七歩成となれば、挟撃の形を作ることができることも見逃せない。
 では、先手はどう受けるか?以下、▲3六香 、△7七歩成、▲9二飛成、△8五飛、▲3四歩、△同馬!、▲9六竜、△3五歩、▲同香、△同馬、▲3六香、△1七馬、▲3三香成、△7八と、▲1八歩、△8六香!、▲3六銀で「後手の急所の攻めを先手は受け切った!図」。△3四同馬!、△8六香!なんて、思わず棋譜用紙を見返してしまう後手の攻めだ。しかし、先手は冷静に受け止めた。以下、先手が反撃に転じ寄せきった。
 本局は急所を作り執拗に攻める後手と、それをすべて受け切る先手という将棋で、実力者のお二人の将棋らしい内容の濃い将棋だった。

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<第16回 青森県将棋 グランドチャンピオン戦> 棋譜集No3 1回戦-3
 先手 成田 豊文 四段 vs 後手 田村 純也 五段 戦


この将棋はここが凄い! → 「踏み込むべきか?自重すべきか?」

  「踏み込むべきか?自重すべきか?図」  「はたして桂馬は助かるのだろうか?図」
     
 「踏み込むべきか?自重すべきか?図」は後手が△2四歩と受けた局面。ここで先手から▲3五桂と踏み込む手順がある。これに対して、△3四銀は▲2四飛に△3五銀と桂馬を取ることができない。▲8四飛と飛車を抜かれてしまう。そして、▲3五桂に△1二銀は▲2四飛、△4六桂、▲6八玉、△3八桂成、▲同金で銀桂交換でも歩切れで後手大変だ。そこで、▲3五桂に△2五歩と強く指すしかないが、▲2三桂成、△2六歩、▲3二成桂と踏み込まれ後手苦しいだろう。しかし、本譜での先手は△4六桂と打たれる筋を警戒し、▲6八玉と自重した。以下、▲6八玉、△2五角、▲7五銀、△5四飛、▲4六桂、△5五飛、▲6六銀、△3五飛、▲7五歩、△1四角、▲1六歩、△9五歩、▲4八金、△2五角、▲5八玉、△6一玉、▲8六歩、△4四歩で「はたして桂馬は助かるのだろうか?図」。横歩取り持久戦特有の自由度の高い駒組みが続く。プラスの手を指すというより、マイナスな手を指さないように細心の注意が必要だ。こういう将棋は隙を見せて局面が急になるとあっという間に優劣がついてしまう。ここでの△4四歩は「何かやってください。何もしなければ△4五歩と桂馬をいただきますよ。」という手だ。ここで先手は、どう考えるべきだろうか?激しく行くべきか?桂馬取りを受けてまだ駒組みを続けるのか?悩ましいところだ。

 「激しく行ったが、反撃が厳しかった!図」  「後手は踏み込んで寄せ切った!図」
     
 「はたして桂馬は助かるのだろうか?図」から▲3七銀!という手があった。△4五歩には、▲3三歩成!、△同飛、▲4五角で桂馬が助けることができる。▲3三歩成!を△3三同金だと、▲3六歩!で飛車が詰んでしまう。この手はコンピューターに教えていただいた。この一手を示されたとき、「将棋っていろんな手があるのね!」と思わず感心してしてしまった。確かに後手の飛車角は大駒の働きが重要な横歩取りにもかかわらずかなり狭い。だから、飛車角を攻める手を考えるべきなのだ。▲3七銀!は狭い飛車にプレッシャーをかける一手になっている。▲4五角で桂馬が助けた後は、△7二玉、▲7四歩、△同歩、▲8五桂という展開が示されていた。示されてみると思わず納得する手順だ。
 本譜は「はたして桂馬は助かるのだろうか?図」から、桂馬は助からない!と▲2五飛と激しく行った。以下、▲2五同飛、▲3三歩成、△同金、▲2二角、△3二金、▲1一角成、△3六桂、▲4九金、△2八桂成、▲2六歩、△同飛、▲4四馬で「激しく行ったが、反撃が厳しかった!図」。以下、後手は決め所とばかりに踏み込んでいく。△3八成桂、▲2六馬、△4九成桂、▲6九玉、△2九飛、▲7九玉、△2六飛成、▲3三歩、△2八竜、▲3二歩成、△5九成桂、▲3一飛、△7二玉、▲6八金打、△7六銀で「後手は踏み込んで寄せ切った!図」。飛車を捨てて金駒二枚を取るのが決め手となり、寄せの形が出来上がった。以下、後手の快勝譜となった。
 横歩取りの将棋は、自由度の高い駒組み、変化していく急所、思いもよらない一手とあまりに難易度が高い。そして、踏み込むべきか?自重すべきか?の正確な読みが何より重要だ。実力のある方には楽しく、そうではない人には手出しができない戦型だ。

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<第16回 青森県将棋 グランドチャンピオン戦> 棋譜集No4 1回戦-4
 先手 伊東 恒紀 五段 vs 後手 工藤 俊介 五段 戦


この将棋はここが凄い! → 「入玉を阻止できるのか?できないのか?」

 「この時点では入玉ができそうだが…図」 「▲4五金打に後手はどう対応すべきか?図」
     
 「この時点では入玉できそうだが…図」は、後手の工藤五段得意の雁木からの入玉型だ。これだけ玉頭が手厚ければ入玉できそうに見える。ただ、先手はまだ金駒二枚を手持ちにしている。桂馬と歩をうまく使い、馬の利きをうまく使えれば、入玉を阻止できる。
 以下、先手は入玉を防ぐ拠点を作り、後手は馬の利きを遮りながら成り駒を作る攻防が延々と続く。以下、▲2九歩、△1七角成、▲2八桂、△1五銀、▲3八歩、△同成桂、▲4七金、△1三歩、▲2三銀、△3六香、▲同桂、△同歩、▲2八香、△5五桂、▲2七香、△同馬、▲2八銀、△同成桂、▲同歩、△同馬、▲2九歩、△3八馬、▲4六金 、△5八金、▲7九飛、△3七馬、▲4五金打で、「▲4五金打に後手はどう対応すべきか?図」。先手は▲2九歩という大きな拠点を作り、▲2八桂と後手玉をかなり狭めた。ここに桂馬を打てるのは大きい。この桂歩の効果的な使い方により、後手の成り駒をどんどん減っていった。「▲4五金打に後手はどう対応すべきか?図」ではかなり玉頭が手薄になってしまった。
 ここで、先手は▲4五金打と投入した。先手が最後の金駒を使ったこの場面は後手にとって大事な局面だ。さて、どう考えたら良いのだろうか?

【仮想図】「最後の金駒を使ったら攻め合い!図」「再度の▲2八桂で後手に勝ちが無くなった!図」
     
 「▲4五金打に後手はどう対応すべきか?図」から、入玉を諦め攻め合いにでるのはどうだろうか?△6七桂不成!、▲3九飛、△7九銀、▲9八玉、△4五金!、▲3七飛、△同歩成、▲3四角、△2六玉、▲4五角、△7八飛!、▲8八桂、△5二飛!で、【仮想図】「最後の金駒を使ったら攻め合い!図」。先手は攻めに金駒を投入したので、この瞬間受けがきかない。そこで△6七桂不成!で飛車取りと攻め合うのが有力だ。以下の変化で、△4五金!に▲4五同金には△6六馬と馬を抜かれるので、▲3七飛〜▲3四角〜▲4五角。その瞬間、▲3八桂からと、▲5三馬からの二通りの詰めろ。そこで、△7八飛!で合い駒を使わせてから、△5二飛!で二つの詰めろを防ぐ。この局面は難しいが後手が勝っていないだろうか?
 本譜は「▲4五金打に後手はどう対応すべきか?図」から△4三金と引いたため、△4三金、▲5五馬、△2六銀、▲2八桂で「再度の▲2八桂で後手に勝ちが無くなった!図」。これ以降、後手にチャンスがなくなった。以下、先手が寄せ切った。
 最初の「この時点では入玉できそうだが…図」では先手は入玉の阻止が難しく後手が良さそうに見えるのだが、その後の先手の攻めが本当にうるさい。調べてみるとあちこちに先手に勝つ変化があった。実は【仮想図】のような後手が戦えそうな局面を見つけるが大変だった。逆転に見えるが、しつこい攻めをかわすのはかなり大変だったようだ。伊東五段の攻めは本当に切れない。次局も「切れない攻め」が披露されることとなる。

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<第16回 青森県将棋 グランドチャンピオン戦> 棋譜集No5 2回戦-1
 先手 伊東 恒紀 五段 vs 後手 田村 純也 五段 戦


この将棋はここが凄い! → 「攻めが続くのか?続かないのか?」

 「先手の攻め駒は1.5枚しかないが…図」 「この瞬間は先手の攻め駒が3枚だが…図」
     
 「先手の攻め駒は1.5枚しかないが…図」は、先手は金と角桂の2枚換えで大きく駒損していて、じっとしていると後手の攻め駒に圧倒されそうだ。だから、何とか攻め合いに持ち込みたい。しかし、飛車は攻めに効いていない。攻め駒は持ち駒の金1枚と攻めにも守りにも中途半端な中央の銀は0.5枚扱い。攻めが通る4枚の攻めにはるかに及ばない。せめて銀を前に進めて攻めに活用して、急所に歩を打って攻め駒として使いたい。一方の後手は、自玉の傷を消しながら、先手の数少ない攻め駒を責めていきたい。以下、△5四歩、▲同銀、△5三歩、▲4五銀、△4七角成、▲4三歩!、△5一銀左、▲4四銀、△8四飛で「この瞬間は先手の攻め駒が3枚だが…図」。△4七角成と歩が切れた瞬間に▲4三歩!が機敏な一手。攻めの拠点を作ることに成功した。そして、▲4四銀と銀を玉頭に利かせ攻め駒とする。それに対して、後手は△8四飛と攻め駒を責める。ここで先手は何とかしないといけない。攻め駒が3枚なのは一瞬だ。はたしてここから先手の攻めは続くのだろうか?

 「先手は3枚の攻めを何とかつなげた!図」 「先手の攻め駒がついに4枚になった!図」
     
 「この瞬間は先手の攻め駒が3枚だが…図」から、▲4二金、△6一玉、▲5一金、△同玉、▲4二歩成、△同玉、▲4三銀打、△5一玉、▲5四歩!で「先手は3枚の攻めを何とかつなげた!図」。先手は銀取りを受けながら3枚の攻めをつなげた。しかし、まだまだ「ぎりぎり」の攻めだ。以下、△4二歩、▲5三歩成!、△4三歩、▲同銀成、△5三銀、▲同成銀、△4二金、▲5四歩!、△5二歩、▲6二銀、△4一玉、▲4三歩!、△5三歩、▲同歩成、△3二玉、▲4二歩成、△3三玉、▲3五金で「先手の攻め駒がついに4枚になった!図」。先手は、歩を駆使して「しつこく」攻め続けて、と金を量産することに成功した。ついに攻め駒は4枚になり、以下先手が攻め切った。
 それにしても、随分と駒損し攻め駒不足な状況で、先手は「ぎりぎり」で「しつこい」攻めをつなげた。伊東五段の攻めは本当に切れない。本局も「切れない攻め」が通った一局だった。

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<第16回 青森県将棋 グランドチャンピオン戦> 棋譜集No6 2回戦-2
 先手 鈴木 雄貴 五段 vs 後手 船橋 隆一 四段 戦


この将棋はここが凄い! → 「土壇場の勝負手!と踏ん張り

   「一目、先手が攻め合い勝ち!図」    「ここで後手は勝負手を繰り出す!図」
     
 「一目、先手が攻め合い勝ち!図」は、△5七歩と歩を垂らした局面。先手は中央の角と銀取りに飛べる右桂。後、いつでも成銀で飛車を取れる。持ち駒の角と合わせて攻め駒は4枚。後手はと金を作っても攻め駒は2枚。成銀はもらえそうだが、いつ飛車を取ってくれるかはわからない。もし銀を手に入れたとしても攻め駒は3枚だ。玉型はほぼ同じ。手番は先手ということを考えても、先手の攻め合い勝ちが濃厚な局面だ。以下、▲2五桂!、△4二銀、▲4六歩!、△5八歩成、▲4五歩!、△5三銀、▲6六角、△4九飛成、▲4四歩、△同銀、▲6三角、△2四歩、▲4五歩、△3三銀、▲同桂成、△同桂、▲4四歩、△同金、▲9二成銀、△同香、▲4一角成で「ここで後手は勝負手を繰り出す!図」。先手は中央の角を活かすために▲2五桂!〜▲4六歩!〜▲4五歩!と玉のこびんを攻める斜めの攻撃を組み立てていく。それに対して後手はと金を作り、飛車を取らせて銀を手に入れ、それでも攻め駒が足りないので後は受けに回る。一見、先手快勝譜に見える。しかし、後手の船橋四段は不利になっても常に「逆転の構図」を描いている。そして、土壇場で「勝負手」を繰り出す。先手のミスを誘発するここからの3手を考えてみてください。

 「先手は秒読みの中どう対応すべきか?図」   「後手の勝負手が奏功した!図」
     
 「ここで後手は勝負手を繰り出す!図」から、6九銀!、▲7九金、△5五金!で「先手は秒読みの中どう対応すべきか?図」。まず6九銀!を入れてから、突然△5五金!。詰めろが掛かり易い局面を作ってから、そして「勝負手」を繰り出すというのが後手が描いた「逆転の構図」だ。
 対する先手は「これは一体何だろう?」という驚きを押さえ、気持ちを落ち着けて局面を把握する。一目、▲3二馬、△同玉、▲5五角と二枚の金を取る手が浮かぶ。しかし、それよりもっと良い手が無いか?もしかして、決め手があるかも?でも、変な駒を与えると自玉が寄せられるかも?これを秒読みの中、正確に判断しなければならない。
 先手は▲3一銀、△同金、▲2三飛と決めに行った。以下、▲2三飛、△1二玉、▲3三飛成、△4一竜、▲5五角、△2二銀、▲1五桂、△1四角!、▲2四竜、△2三歩、▲3四竜、△3三歩、▲6四竜、△4八竜で「後手の勝負手が奏功した!図」。△1四角!が粘りのある手で、完全に後手が盛り返すことに成功した。あの鈴木五段が終盤で盛り返される。これは中々見ることはできないことだ。船橋四段の勝負術が見事だった。
 しかし、この将棋は最終的に鈴木五段が勝った。ここから、決め手を与えず受け続け、もらった駒で寄せ切った。
 苦しい局面で「土壇場の勝負手」を見つけ出した船橋四段、盛り返されても「土壇場の踏ん張り」を見せた鈴木五段。お二人の実力が伝わってくる将棋だった。

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<第16回 青森県将棋 グランドチャンピオン戦> 棋譜集No7 2回戦-3
 先手 工藤 俊介 五段 vs 後手 成田 豊文 四段 戦


この将棋はここが凄い! → 自玉の急所は相手玉の急所!

「ここから後手は二枚美濃の急所を突く!図」 「今度は先手が二枚穴熊の急所を突く!図」
     
 「ここから後手は二枚美濃の急所を突く!図」から、後手は先手玉の弱点を攻撃する。△7四歩!、▲1一角成、△7五歩!、▲8八玉、△7六歩!、▲2一馬、△4三馬で、「今度は先手が二枚穴熊の急所を突く!図」。先手玉は「二枚美濃」、後手玉は「二枚穴熊」で、お互いに一枚の金が囲いから離れている。こういう囲いは、横からの攻めには強い。しかし、縦の攻めには脆さを見せる。△7四歩!〜△7五歩!〜△7六歩!は「二枚美濃」の急所中の急所を突いている。後手は△7六歩!という大きな拠点を作った後は、△4三馬で銀にプレッシャーをかけた。ここで、先手は後手玉の急所を突いて見事に反撃を開始した。その一手を考えてみてください。

  「金が浮き駒になって先手が優勢!図」    「金を取られては穴熊はもたない…図」
     
 「今度は先手が二枚穴熊の急所を突く!図」から、先手の次の一手は▲7二歩!。先手が先に急所の金取りを掛けた。以下、△3三馬、▲6六桂、△7二金、▲3二馬、△同馬、▲7四飛、△7三角、▲同飛成、△同銀、▲6一角で「金が浮き駒になって先手が優勢!図」。「二枚美濃」と「二枚穴熊」を比較した場合、玉が守りに参加できる、囲いの広さを利用できるという点で「二枚美濃」の方が耐久力がある。「二枚穴熊」は▲7二歩!が入ると金銀の連結が崩れて、囲いの崩壊が早い。連結を維持するという意味では、途中の△7二金では△7二飛だったかもしれない。
 「金が浮き駒になって先手が優勢!図」以下、△8二金、▲7四歩、△8四銀、▲3四角成、△7七歩成、▲同玉!、△5二歩、▲6二銀成、△7五銀、▲6八玉!、△2八飛、▲3八金!、△2六飛成、▲7三歩成、△同桂、▲7四桂で、「金を取られては穴熊はもたない…図」。先手は△7七歩成に▲7七同玉!で玉を守りに使い、▲6八玉!で囲いの広さを利用した。そして、△2八飛に対して▲3八金!。この金が使えれば「二枚美濃」は横からの攻めにも強いのだ。これでは後手も戦意が喪失してしまう。以下、先手が寄せ切った。
 本局は、後手が「二枚美濃」の急所を突いたのだが、それ以上に「二枚穴熊」への反動が大きい将棋だった。

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<第16回 青森県将棋 グランドチャンピオン戦> 棋譜集No8 2回戦-4
 先手 和田  聡 五段 vs 後手 木村 孝太郎 五段 戦


この将棋はここが凄い! → 躍動感のある桂馬の攻め!

 「後手は桂馬を軸に攻めを組み立てる!図」 「後手はさらに桂馬を使って攻め立てる!図」
     
 
木村五段の躍動感のある将棋には桂馬の攻めがよく似合う。自然と手が桂馬に向かうのではないか?
 「後手は桂馬を軸に組み立てる!図」から、△7三桂!、▲4四角、△同歩、▲2四歩、△同歩、▲2三角、△4五桂!、▲3四角成、△3七桂成、▲同銀、△6五歩、▲8八玉(△6六桂!を避ける)、△5七歩、▲5九飛(▲同飛は△4五桂!)、△8四桂!、▲7七金、△6四角、▲4六歩、△5一飛、▲3三馬、△4五歩、▲5五桂、△同銀、▲同歩、△6六歩、▲同金、△6五歩、▲5六金、△9五歩、▲同歩、△9七歩、▲8六銀、△4六歩、▲同銀で「後手はさらに桂馬を使って攻め立てる!図」。超手数並べたが、後手の桂馬を軸にした攻めの組み立てをぜひ見ていただきたい。左桂を捌き、△8四桂へとワープさせる手順は振り飛車のお手本だ。
 では、「後手はさらに桂馬を使って攻め立てる!図」からの三手を考えていただきたい。加速する桂馬の攻めを考えてみてください。

 「桂馬のトライアングルアタック炸裂!図」 「金銀の見事な動きで先手が耐えている!図」
     
 「後手はさらに桂馬を使って攻め立てる!図」から、△8六角、▲同歩、△6四桂!で「桂馬のトライアングルアタック炸裂!図」。後手は、△8六角と角を邪魔駒とばかりに切り飛ばし、角がいた位置に△6四桂!と打った。何でしょう、この後手の桂馬の布陣は。スピードのある飛行隊が戦隊を組んで飛んで来ているようだ。正に、桂馬のトライアングルアタック!炸裂だ。
 以下、▲4五金!、△7六桂右、▲7八玉、△6六歩、▲同銀、△6七歩、▲同玉、△5六銀、▲7七玉、△6七歩、▲5七銀右!、△同銀不成、▲同飛、△6八歩成、▲同金、△5六銀、▲2七飛で「金銀の見事な動きで先手が耐えている!図」。なんと先手は▲4五金!と斜めに上がった!この金はもともと自陣にいた金だ。その金が玉からどんどん離れ、斜めに誘われる。そんな手で大丈夫なのか?目を疑う一手だ。▲5七金と歩と取ってはいけないのだろうか?その後の▲5七銀右!を見ると、ここの歩は金ではなく銀で取らなければならないのだろう。
 そして、「金銀の見事な動きで先手が耐えている!図」以下、本譜は△6五桂!、▲同銀、△同銀、▲7八金!となった。こうなってみると、後手が耐え切っているようだ。△6五桂!は、手が桂馬を求めている木村五段らしい一手だが、▲7八金!と交わされると攻めが細くなっている。△6五桂!では、冴えない攻めだが△6八桂成、▲同玉、△6七金、▲同飛、△同銀成、▲同玉、△4七飛と清算するのが良かったか?
 本局は、木村五段の桂馬の激しい攻めを和田五段が金銀の見事な動きでかわした一局だった。

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<第16回 青森県将棋 グランドチャンピオン戦> 棋譜集No9 3回戦-1
 先手 伊東 恒紀 五段 vs 後手 鈴木 雄貴 五段 戦


この将棋はここが凄い! → 矢倉戦の形勢判断の難しさ!

 「△5五歩に対してどう考えるべきか?図」 「先手は効率良く駒を使う必要がある!図」
     
 矢倉戦は盤上の駒をどれだけ使えるかが大事な要素だ。
 最近の矢倉戦では、堂々と△4五歩と突く手が見直されている。矢倉はここの位をとると目標にされると言われていたが、常識が疑われているようだ。こうやって定跡が塗り替えられるのは、将棋界ではよくあることだ。「△5五歩に対してどう考えるべきなのか?図」は、△4五歩の後、さらに大胆に△5五歩と突いた局面だ。以下、▲4六歩、△5六歩、▲4五歩、△5四銀、▲3五歩、△7三桂、▲3四歩、△同金、▲4六銀、△9五歩、▲3五歩、△2四金で「先手は効率よく駒を使う必要がある!図」。先手は銀が大威張りで二つの位を取って調子が良く見える。しかし、桂香を比べると後手の方がはるかに働いている。使えそうな駒が少ないだけに、先手はかなり効率良く駒を使うのが必須条件だ。
 では、ここでの先手からの三手を考えてみてください。その三手は難しくないので、上級者の方はその後の後手の狙いとそれに対する先手の対応まで予想してください。

 「先手は飛車をどう使うつもりなのか?図」  「先手は飛車を縦横に活用した!図」
     
 「先手は効率よく駒を使う必要がある!図」から、▲5五歩、△4三銀、▲5八飛で「先手は飛車をどう使うつもりなのか?図」。▲5五歩と三つ目の位を確保して、▲5八飛から▲5六飛を狙う。ここまでは当然の手順だ。問題はここから。先手はどういう攻撃がくるのを予測して、どう受けるつもりなのだろうか。以下、△9六歩、▲同歩、△9七歩、▲同香、△8五桂、▲8六銀、△9七桂成、▲同銀、△9三香打、▲5六飛、△9六香、▲同銀、△同香、▲6五歩、△3一角、▲5四歩、△5二歩、▲7五歩で、「先手は飛車を縦横に活用した!図」。後手からの当然の端攻めに対して、先手は▲5六飛から▲5四歩と飛車を縦に使い▲5三歩成を狙う。ここは銀矢倉の弱点だ。そして、▲6五歩から▲7五歩と今度は飛車を横に使い端攻めを受けた。「先手は効率よく駒を使う必要がある!図」で「先手は飛車を縦横に活用した!図」がおそらく先手には見えていたのではないか?すばらしい飛車の活用方法だった。
 ただ、先手が優勢かというとそうとも言えない。以下、△9二飛、▲9三歩、△同飛、▲9四歩、△同飛、▲9五香、△9八香成、▲同玉、△9五飛、▲同角、△9一香となってみると後手も十分戦えている。後手は玉頭に二箇所も位を取られていて、桂香を打ち込まれれば金銀は二枚剥がされる。それでも、先手後手の囲いの金駒は二枚ずつで対等だ。それというのも後手は桂香を使って、先手の囲いの銀と交換しているのが大きい。先手は右の桂香落ち状態なので、これだけ駒をきれいに使えているのにまだまだわからない局面だ。
 それにしても、矢倉戦は盤上の駒をどれだけ使えるかが大事な要素だ。

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<第16回 青森県将棋 グランドチャンピオン戦> 棋譜集No10 3回戦-2
 先手 工藤 俊介 五段 vs 後手 船橋 隆一 四段 戦


この将棋はここが凄い! → どこから攻めるのか?

 「ここで後手はどこから攻めるのか?図」  「ここで先手はどこから攻めるのか?図」
     
 まずは「ここで後手はどこから攻めるのか?図」からの後手の次の一手を考えてみてください。
 「ここで後手はどこから攻めるのか?図」は先手後手共に攻めのきっかけが難しい。先手は5筋に金のブロックを作り龍を封じ、後手は金銀の連係で飛車を抑えている。先手は銀を取って飛車を切る攻めしかないし、後手は金のブロックを崩さないといけない。
 「ここで後手はどこから攻めるのか?図」からの次の一手は△4二桂!。この桂馬はどう使うのか?以下、▲5六馬、△5四桂!、▲5五歩、△4六桂!、▲5七金上、△3六成銀で「ここで先手はどこから攻めるのか?図」。△4二桂!〜△5四桂!〜△4六桂!と天使のような跳躍を見せ、先手の金を動かし次の△5八歩を狙う。△4二桂!はなんと先手の金を攻撃する攻め駒だった!恐ろしい構想力だ。
 確実な攻めを見せられて、今度は先手が攻めのきっかけを見つけなければならない。▲3二飛成と飛車を切るのはさすがに早い。どこから手をつけたらよいのだろうか。先手の次の一手を考えてみてください。上級者の方はその後の攻めの形をイメージしてください。

  「先手は本丸を一直線に攻める!図」   「あっという間に後手玉を寄せ切った!図」
     
 「ここで先手はどこから攻めるのか?図」から、▲6四歩!、△5八歩、▲6三歩成、△同銀、▲6四歩、△同銀、▲6一角!で「先手は本丸を一直線に攻める!図」。後手の布陣は左に玉を守る本丸と、右に飛車を抑える出城に分かれている。先手は▲6四歩から本丸の連係を切り崩していった。▲6一角!となってみると、先ほど天使の跳躍の桂馬を交わしていた▲5六馬が効いている。もしかして、その時から玉頭を攻めることを想定していたのだろうか?恐ろしい構想力だ。
 以下、△3五成銀、▲3二飛成、△同 金、▲6三銀、△7一飛、▲7二銀成、△同飛、▲6三金、△7一銀、▲7二角成、△同銀、▲6二飛、△6一角、▲3二飛成、△5九歩成、▲7二金で「あっという間に後手玉を寄せ切った!図」。これが投了図となった。それにしても、本丸に手がついてからの攻めが恐ろしく速い。攻めの方向が正しいとこういうことになるのだろう。
 本局は「どこから攻めるのか?」と途方にくれそうな局面から、お二人の恐ろしい構想力が見所だった。

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<第16回 青森県将棋 グランドチャンピオン戦> 棋譜集No11 3回戦-3
 先手 和田  聡 五段 vs 後手 田村 純也 五段 戦


この将棋はここが凄い! → 「和田五段の金駒の動き!」

「後手は矢倉△5三銀右急戦を明示した!図」 「ここで和田五段らしい一手が出る!図」
     
 「後手は矢倉△5三銀右急戦を明示した!図」、後手の積極策に対して、先手はどう対応するのか?以下、▲2六歩、△8五歩、▲2五歩、△8六歩、▲同歩、△同飛、▲2四歩、△同歩、▲同飛、△2三歩、▲2八飛、△6四歩、▲8七歩、△8二飛、▲3六歩、△5五歩、▲4六歩、△5六歩、▲4七銀、△5四銀、▲5六銀、△5五銀、▲同銀、△同角で「ここで和田五段らしい一手が出る!図」。いろいろな手がありそうな局面だが、和田五段らしい次の一手を考えてみてください。

「守りの金が前進し、攻めの拠点となる!図」 「ついに金が敵陣まで攻め上がった!図」
     
 「ここで和田五段らしい一手が出る!図」からの次の一手は▲5六金!グイッと前に出た。和田五段の中には「金は出る手に好手あり!」という格言があるようだ。前局の木村五段戦でもこういう金が前進する一手があった。こういう金が玉から離れる手は相手には見えづらく意表をつかれてしまう。▲5六金!以下、△2二角、▲2五銀!、△5五銀、▲4五金!、△5六銀、▲3四銀!で「守りの金が前進し、攻めの拠点となる!図」。グイッグイッと金が攻め上がり、持ち駒の銀との連係で角頭に殺到した。
 以下、△3三銀、▲5四歩、△3四銀、▲同金、△5七歩、▲5三歩成、△8三飛、▲5四歩、△5八歩成、▲同玉、△5五角、▲2三金!で「ついに金が敵陣まで攻め上がった!図」。守りの金がついに敵陣まで到達し、攻めの金となり決定的な働きをした。サッカーで言えば、ゴール前にいたディフェンダーがドリブルでどんどん攻め上がり、途中で味方とワンツーで敵を交わし、ゴール前まで行き敵に倒されPKをもらったような局面だ。
 和田五段の将棋は金駒の動きで得点を挙げたり、相手の攻めを交わすのが見所だ。

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<第16回 青森県将棋 グランドチャンピオン戦> 棋譜集No12 3回戦-4
 先手 木村 孝太郎 五段 vs 後手 成田 豊文 四段 戦


この将棋はここが凄い! → 「木村五段の模範演技の攻め!」

  「模範演技のような攻めが炸裂する!図」 「ここで先手はどう決めに行くのか?図」
     
 まずは、棋譜を並べて「模範演技のような攻めが炸裂する!図」の前を鑑賞していただきたい。ここにくるまでに、流れるように攻めの形を作っているのを確認してほしい。それを見ると、いきなり大技を狙うのではなく、少しずつ攻めのギアを上げていっているのが理解できる。「模範演技のような攻めが炸裂する!図」で先手は角を殺されているのだが、全く慌てない。この角を切る攻めの組み立てをしているからだ。以下、▲4四角!、△同歩、▲2三銀、△3一玉、▲3二銀成、△同玉、▲2三歩成、△同玉、▲1三桂成、△3二玉、▲2二飛成、△4三玉、▲2三成桂、△9五歩で「ここで先手はどう決めにいくのか?図」。▲4四角!以下、加速度的にスピードを上げて、先手の攻めが決まった。
 先手が勝勢ではあるが、後手もこのまま終わる訳にもいかない。△9五歩から最後の突撃を試みる。ここで先手はどうやって決めるのか?勝ちはいろいろとあるだけに意外と悩ましい。持ち駒が多くはないという不安要素もある。しかし、木村五段ズバッと決める。どう決めに行くのか?考えてみてください。

 「先手は攻めも守りも歩しか使わない!図」 「先手は流れるような攻めで決めた!図」
     
 勝勢ではあるが持ち駒が多くはない時、相手に攻めさせてカウンターで決めるのが一番早い。
 「ここで先手はどう決めにいくのか?図」から、先手は▲3五歩!と攻め合いに出た。以下、△9六歩、▲9三歩!、△8二飛、▲3四歩!、△5二玉、▲3三歩成!で「先手は攻めも守りも歩だけしか使わない!図」。後手は端から攻めるしかないのだが、先手は▲9三歩!で飛車を抑える。後手の飛車は攻防に働いているので、△9三同飛と取り切れない。そして、▲3四歩!〜▲3三歩成!と歩で攻め込んでいく。先手は攻めも守りも歩しか使っていない。なんと効率の良い攻防だろう!
 以下、△6三玉、▲9四桂、△6二飛、▲4二と、△9三香、▲5二と、△9二飛、▲1一竜、△9四香、▲8一竜、△9七歩成、▲7九玉、△8二飛、▲同竜  △同角、▲6二飛、△7三玉、▲8四金、△同 玉、▲8二飛成で「先手は流れるような攻めで決めた!図」。これが投了図となった。
 木村五段の攻めはまさに模範演技。綿密に準備をして攻めかかり、小駒のコンビネーションで敵陣を切り崩し、大駒が成りこむ。相手の最後の反撃も歩で押さえ、自分の攻撃も歩を最大限に活用する。本局は攻めのお手本となる一局だった。

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<第16回 青森県将棋 グランドチャンピオン戦> 棋譜集No13 4回戦-1
 先手 伊東 恒紀 五段 vs 後手 和田  聡 五段 戦


この将棋はここが凄い! → 「矢倉戦の腰の入った攻め!」

「伊東五段、▲1八香型を連続採用した!図」 「ここから腰の入った攻めを繰り出す!図」
     
 「伊東五段、▲1八香型を連続採用した!図」を見ていただきたい。伊東五段は、全局の鈴木五段戦でもこの形で戦っている。以下、△4二飛、▲4六銀、△9五歩、▲3七桂、△4四歩、▲2六歩、△9三桂、▲4五歩、△8五桂、▲8六銀、△9二飛で「ここから腰の入った攻めを繰り出す!図」。後手はカウンターの布陣を敷いている。だから、先手が軽い攻めしかできないと、大きな反動が帰ってくる。先手は、腰の入った攻めが必要な局面だ。矢倉戦はここら辺の数手で優劣が大きく動く。「ここから腰の入った攻めを繰り出す!図」からの先手の攻めの組み立てを考えてみてください。

「次に▲6六角から斜めの攻めを見せる!図」 「今度は端攻めで桂香を使って攻める!図」
     
 「ここから腰の入った攻めを繰り出す!図」から、▲6五歩、△7三角、▲4四歩、△同銀右、▲4五歩、△5三銀、▲2五桂、△2四銀、▲5七角で「次に▲6六角から斜めの攻めを見せる!図」。銀の力で▲4五歩と位を確保して、▲2五桂から後手の要の銀を移動させる。これで、▲6五歩〜▲5七角〜▲6六角の斜めの攻めを狙う。▲6五歩と突いたからには、これくらい強力な攻めがないといけない。なぜなら、△6四歩からの反撃が見えているからだ。
 「次に▲6六角からの斜めの攻めを見せる!図」から、△1二玉、▲1六歩、△6二飛、▲1五歩、△6四歩、▲同歩、△同銀、▲1四歩、△同歩、▲1三歩で「今度は端攻めで桂香を使って攻める!図」。後手は△1二玉と▲6六角に備えた。それを見て、先手は▲1六歩〜▲1五歩〜▲1四歩〜▲1三歩と端攻めに出た。斜めの攻めから端攻めと流れるような攻めの組み立てだ。右の攻め駒が全て活用され、本当に腰の入った攻めだ。これほど、駒をうまく使った攻めを受けとめるのは困難だ。以下、先手の快勝譜となった。
 本局は伊東五段の充実ぶりが伝わってくる一局だった。

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<第16回 青森県将棋 グランドチャンピオン戦> 棋譜集No14 4回戦-2
 先手 鈴木 雄貴 五段 vs 後手 工藤 俊介 五段 戦


この将棋はここが凄い! → 「将棋は終盤が本当に面白い!」

 「後手の端攻めを先手は余しに行く!図」 「後手は起死回生の3手を狙っていた!図」
     
 「後手の端攻めを先手は余しにいく!図」を見ていただきたい。終盤戦となり、金駒数、大駒の働き、玉の堅さすべて先手が上回っている。後手からの攻めは端攻めしかないし、▲5三○と何か打って飛車を遮断すれば後手は攻め駒不足になりそうだ。以下、▲9七金!、△7六銀、▲7七銀!、△8七香成、▲同金、△同銀成、▲同玉、△7五桂、▲8六玉、△7四銀、▲7六銀!、△6五金、▲5三香!で「後手は起死回生の3手を狙っていた!図」。先手は▲9七金!〜▲7七銀!〜▲7六銀!と後手の攻めを余しに行く。そして、▲5三香!と「これで攻め駒不足ですよね?」という先手の問いかけに、後手は「その手を待っていました!」と起死回生の3手を繰り出す。こんな何もなさそうな局面で、後手は狙っていたようだ。あっという間に寄せの形を作った。
 ここで後手からの3手を考えてください。「将棋は本当に終盤が面白い!」と実感できます。

 「後手は詰めろ馬取りを狙っていた!図」 「先手の攻めをかわし脱出に成功した?図」
     
 「後手は起死回生の3手を狙っていた!図」から、△5三同飛!、▲同と、△4八竜!で、「後手は詰めろ馬取りを狙っていた!図」。後手は△5三同飛!と飛車と香車を差し違え、帰す刀で△4八竜!で金を手に入れた。「これは一体なんだろう?」と、もし▲4八同金と普通に取ってしまうとどうなるか?なんと△8五銀!で先手玉が詰むのである。△8五銀!に▲8五同銀は△8七金、▲8五同玉には△8四香、▲7七玉と逃げると△7六金、▲6八玉、△6七金、▲7九玉、△7八銀以下、ばらしての詰み。おそらく後手は、△6五金の時点で「金と香を手に入れれば先手玉は詰み」と考えていたのではないか?、そして▲5三香!とあえて打たせたのではないか?それにしても、工藤五段の終盤は名刀の切れ味がある。まともにくらったら一たまりもない。
 そして、鈴木五段は秒読みの中、狙い澄ました名刀の一振りをかわさなければならない。「後手は詰めろ馬取りを狙っていた!図」から、△4二飛と馬取りを受け、以下△5二歩、▲6五銀、△同銀、▲7五玉、△7四銀打、▲6四玉で、「先手は攻めをかわし脱出に成功した?図」。あっという間に寄せ形に追い込まれた先手は詰めろをかわし続けて、▲6四玉で右辺への逃げ込みを図った。これに対して、後手は寄せを諦め△6二香、▲5五玉、△5三歩と攻めながら自玉に手を入れた。そして、その後入玉した先手の勝利となった。それにしても、鈴木五段の終盤は二枚腰の強さがある。容易に崩れない抜群の安定感がある。
 そして、今一度「先手は攻めをかわし脱出に成功した?図」を見ていただきたい。実は、この局面では△5八竜!という後手の決め手があった。▲5八同金に、△6三金!、▲5五玉、△5四金打、▲同と、△同金で先手玉は詰んでしまう。将棋にはいろいろな手があるものだ。
 以上の変化は、後で鈴木五段とコンピューターに教えていただいた手順だ。本局は「将棋は終盤が本当に面白い!」と実感できる棋譜だ。

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<第16回 青森県将棋 グランドチャンピオン戦> 棋譜集No15 4回戦-3
 先手 木村 孝太郎 五段 vs 後手 田村 純也 五段 戦


この将棋はここが凄い! → 「相矢倉△4五歩の是非!」

  「後手はやはり△4五歩と突いた!図」   「お互いにどう攻めの形を作るのか?図」
     
 「後手はやはり△4五歩と突いた!図」を見ていただきたい。「相矢倉△4五歩の是非!」が、今話題の局面だ。本大会で、何回も△4五歩と銀を追い返す手が指されている。以前は相矢倉で△4五歩と突くと争点を作られ、突いてはいけないと言われていたと聞いたことがある。今は果たしてそうなのだろうか?と、その可能性にかけてみる方が多いようだ。本局では、△3一玉型で△8五歩と突く工夫をしているが、この後どうなるのだろうか。
 「後手はやはり△4五歩と突いた!図」から、▲3七銀、△7三角、▲4八飛、△5三銀、▲4六歩、△同歩、▲同角、△6四歩で、「お互いにどう攻めの形を作るのか?図」。「矢倉戦は駒組みが命!」位の気持ちで、この後それぞれどういう攻めの形を目指しているのか?、その時どちらの攻めが速いのか?考えてみてください。

  「先手の攻撃態勢が早くも整った!図」    「矢倉の最大の強みは手抜き!図」
     
  「お互いにどう攻めの形を作るのか?図」から、▲5七角、△6二飛、▲4六銀、△4四歩、▲3七桂、△8四角、▲4五歩で「先手の攻撃態勢が早くも整った!図」。先手は銀桂を活用し、後手は△8五歩型を活かし四手角を目指した。ただ、後手は△4五歩の位を取ったことがこの場合は裏目に出て手が遅れている。本来だったら、この時点で△7三桂と飛んでいたい。そして、その後カウンターを狙いどうか?という局面だ。後手は△7三桂と飛んでいないのに、攻撃態勢が整った先手が▲4五歩と先攻している。この後、両者が普通に指せば先手が勝つだろう。
 そこで、ここから後手は勝負、勝負と行く。「先手の攻撃態勢が早くも整った!図」から△7三桂!、▲3五歩、△6五歩!、▲3四歩、△同銀、▲3五歩、△6六歩!、▲同銀、△6五桂!、▲同銀、△5七角成、▲同銀、△8六歩!、▲4四歩、△8七歩成!、▲同金、△8六歩!、▲同金、△5九角!で「矢倉の最大の強みは手抜き!図」。矢倉という囲いは戦う囲い。攻撃を受けても手抜きが利くので、攻め合いに持ち込めるのだ。△7三桂!〜△6五歩!〜△6六歩!〜△6五桂!〜△8六歩!〜△8七歩成!〜△8六歩!〜△5九角!と、自陣の金駒取りを無視して恐ろしいほど攻めまくる。迫力ある攻めだが、以下▲4三歩成、△同銀、▲7七桂、△4八角成、▲同銀、△6九飛、▲5八角、△1九飛成、▲4五桂と冷静に対応されて、以下先手が優勢となった。
 本大会で、何回も△4五歩と銀を追い返す手が指されたが、すべて先手が勝った。相矢倉△4五歩はなかなか難しい手のようだ。

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<第16回 青森県将棋 グランドチャンピオン戦> 棋譜集No16 4回戦-4
 先手 船橋 隆一 四段 vs 後手 成田 豊文 四段 戦


この将棋はここが凄い! → 「成田四段の本来の芸風!」

 「角交換振り飛車は成田四段の十八番!図」  「ここから成田四段が芸風を発揮する!図」
     
 「角交換振り飛車は成田四段の十八番!図」を見ていただきたい。芸暦が長くなりもはや何でもできる成田四段だが、もともとは「攻める振り飛車」でブレークした。もちろん角交換振り飛車は得意の持ちネタ。以下、△4四角、▲4六歩、△4二銀、▲4七銀、△8二玉、▲5八金右、△7二銀、▲5六銀、△7七角成、▲同桂、△3三桂、▲9六歩、△9四歩、▲6八金寄、△4四歩、▲8六歩、△5四歩、▲8七銀、△5三銀、▲8八玉で「ここから成田四段が芸風を発揮する!図」。ここから成田四段がらしい展開に持ち込み局面をリードします。後手の次の一手を考えてみてください。

 「成田四段の鋭いツッコミが決まった!図」「攻めや受けをかわして飛車成りが実現!図」
     
 「ここから成田四段が芸風を発揮する!図」から、△4五歩!、▲同歩、△4二飛で「成田四段の鋭いツッコミが決まった!図」。相手にツッコミどころを見つけると成田四段は見逃さない。△4五歩!と2筋を放棄して、4筋から機敏に戦機をつかんだ。以下、▲6六角、△4五桂!、▲4七歩、△5五歩、▲同銀、△3七桂成!、▲同桂、△4七飛成!で「攻めや受けをかわして飛車成りが実現!図」。▲6六角と角成りの攻めを見せられても無視して△4五桂!、▲4七歩と受けられても△5五歩、▲同銀、△3七桂成!と強攻し、飛車成りを実現させた。「なんでやねん!」「どっちやねん!」とツッコミながら、技を決めた感じだ。以下も相手の攻めや受けの意図をかわし、自分の意志を通す指し方で先手が快勝した。
 最後の一局が成田四段の持ち味が良く出ている会心の一局だった。

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文責 阿部浩昭

<了>

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