第59回東北六県将棋大会

今年度出場選手
 岩手県 大将 小山 怜央 五段 副将 佐藤 郁人 三段 先鋒 中川 滉生 五段
 宮城県 大将 星宮 謙 四段 副将 佐藤 勝哉 四段 先鋒 出原 卓朗 三段
 秋田県 大将 鈴木 勝裕 五段 副将 佐藤 弘康 五段 先鋒 納谷 瑛志 三段
 山形県 大将 岡部 寛大 四段 副将 本間 瑞生 三段 先鋒 田部井直史 四段
 福島県 大将 小野内一八 四段 副将 堀井厚太郎 四段 先鋒 渓  康広 三段
 青森県 
大将 工藤 俊介 五段 副将 鈴木 雄貴 五段 先鋒 船橋 隆一 四段  

 
※出場選手一覧は「将棋の里山形とゆうまのホームページ」の掲示板から転載させていただきました。ありがとうございます。


<第59回 東北六県将棋大会> 青森県代表棋譜集No1 1回戦-1

 先手 船橋 隆一 四段(青森) vs 後手 納谷 瑛志 三段(秋田) 戦

この将棋はここが凄い! → 「横歩取り将棋の魅力!」

   「ここで早くも技がかかる!図」    「ここから受けながらかっこ良く決める!図」
       

 まず、28手目△7四歩まで「ここで早くも技がかかる!図」を見ていただきたい。後手は△7四歩と桂馬の活用を図った。横歩取り将棋で桂馬の活用はごく普通の一手に見える。しかし、次の先手の放つ手裏剣で後手が痺れている!

 先手は▲2二歩!手裏剣が急所に当たり早くも先手優勢だ。▲3一角、▲6六角や▲2二角の隙があり、▲2二歩はどうにもこうにも取れない。以下、△8八角成、▲同銀、△3三桂、▲2一歩成で先手はと金ができた。
 じっとはできない後手は、必然的にここから駒損覚悟で暴れるしかなくなった。

 そして、60手△5七角成まで「ここから受けながらかっこ良く決める!図」。後手も詰めろとかなり迫ったが、無理した分攻め駒不足。歩が使える筋が少ないし、持ち駒は銀だけ。良いタイミングで△5四飛が入らない限り決めるのは難しい。だから、先手が受けるだけならいろいろな手段があるだろう。その中で、最もかっこ良く決める手を考えていただきたい。ここからの5手は船橋四段のセンスの良さに感激する手順です。

   「飛車の転換が気持ち良い!図」    「飛び道具が飛び交い鮮やかに決めた!図」
     
 「ここから受けながらかっこ良く決める!図」から、▲5八香!、△4七馬、▲5九桂!、△2五馬、▲5六飛!で「飛車の転換が気持ち良い!図」。
 「ここから受けながらかっこ良く決める!図」から、単純に受けるとしたら▲5九香、△4七馬、▲5八銀だろう。馬をはじいた後、さてどこから反撃しようか?と考える感じ。
 しかし、船橋四段は▲5八香!なぜ、▲5九香ではないかと言うと、△4七馬に▲5九桂!と桂馬で馬をはじくため。だから、あえて香車を離さずに打ったのだ。そして、△2五馬に▲5六飛!が指がしなる一手。香車と飛車のロケットが玉頭に効き、さらに歩も使えるので後手に適当な受けがない。
 以下、△6二金、▲9五角!、△4五銀、▲5五飛、△5四飛、▲同飛、△同銀、▲4一銀、△同玉、▲2一飛、△5二玉、▲2五飛成で「飛び道具が飛び交い鮮やかに決めた!図」。玉頭の傷や角切りがあり、後手は支えきれない。この将棋は先手の快勝譜となった。
 歩の手筋から技を決め、後手に無理をさせる。その攻めを交わしながら、反撃開始。飛角桂香の飛び道具で盤面を大きく使い決める。こんな風に指せたなら横歩取りはたのしいだろうなあ!と横歩取り将棋の魅力がつまった一局だった。

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<第59回 東北六県将棋大会> 青森県代表棋譜集No2 1回戦-2

 先手 鈴木 雄貴 五段(青森) vs 後手 佐藤 弘康 五段(秋田) 戦

この将棋はここが凄い! → 「丁寧な丁寧な後手ノーマル四間飛車!」

   「歩を手持ちにして後手満足!図」    「何を使わなければならないか?図」
     
 「歩を手持ちにして後手満足!図」を見ていただきたい。この後、何とか先手穴熊は戦いに持ち込みたいが、後手銀冠は丁寧に丁寧に飛角銀を使っていく。
 ▲2四歩、△同歩、▲2八飛、△3三角、▲5九角、△4六歩、▲同歩、△5三銀、▲3七角、△3五歩、▲2七飛、△3六歩、▲2八角、△5四銀、▲3四歩、△5一角、▲5三飛で「何を使わなければならないか?図」。先手は次に▲5五歩で銀を押し返そうとしている。ここで、後手は何を使わなければならないか?考えれば次の一手が見えてくるでしょう。さらに、その後何を狙うべきか?考えればこの後の展開が分かると思います。
 佐藤五段の丁寧な丁寧な後手ノーマル四間飛車堪能してください。

   「角を使わなければならない!図」    「歩切れvs四歩得で後手大優勢!図」
     
 「何を使わなければならないか?図」から、△2五歩で「角を使わなければならない!図」。後手は飛角銀を目一杯使わなければならない。何を使わなければならないか?考えれば、△2五歩で△2四角と角の活用を図るのが正解と理解できる。
 そこまでは分かる。その後何を狙うべきか?この後を見ていただきたい。以下、▲5五歩、△4三銀、▲1七角、△2四角、▲7五歩、△同歩、▲5四歩、△同銀、▲2七飛、△1三桂、▲2八角、△4四飛!、▲5六銀、△3四飛!で「歩切れvs四歩得で後手大優勢!図」。後手はいつ爆発するか分からない地雷のような▲3四歩を丁寧に丁寧に除去した。これで後手は何と四歩得!さらに、先手は歩切れであるのが痛すぎる。これでは先手の大駒が捌けない。後手が大優勢だ。
 以下、得した歩で端攻め、そしてチャンスに飛角を金銀に換えて、穴熊に食いついていく。ノーマル四間飛車のお手本になる後手の快勝譜だった。

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<第59回 東北六県将棋大会> 青森県代表棋譜集No3 1回戦-3

 先手 工藤 俊介 五段(青森) vs 後手 鈴木 勝裕 五段(秋田) 戦

この将棋はここが凄い! → 「実力者はどんな戦型でも力を発揮する!」

   「▲3六歩から角頭を狙う!図」      「ここでの後手の冷静な対応は?図」
     
 「▲3六歩から角頭を狙う!図」を見ていただきたい。普通の角換わりの将棋に見えるが、先手は自分から角交換するつもりはない。一度△3三角と上がらせた上に、相手から角交換させ手得を狙っている。以下、△8四歩、▲3七銀、△8五歩、▲4六銀、△8六歩、▲同歩、△同飛、▲3五歩で「ここでの後手の冷静な対応は?図」。たとえ飛車先を交換されても自分からは角交換はしない。角頭を狙い、後手から角交換させようとしている。
 しかし、ここで後手は冷静に対応、5手後先手は大変なことになってしまう。
 先手の工藤五段は定跡形にとらわれず分類不能な戦型で戦っている。それに対する、後手の鈴木五段の見事な対応を見ていただきたい。

   「普通の手では受からない!図」      「金を攻めるという基本は同じ!図」
     
 「ここでの後手の冷静な対応は?図」から、△3五同歩、▲3四歩、△1五角(王手)!、▲6八玉、△8五飛で「普通の手では受からない!図」。もう飛車先はどうにもならないので、▲7五歩、△8六歩、▲7七玉!と普通ではない手で先手は凌いだ。以下、△9四歩、▲7六玉、△9三桂、▲6六角、△3六歩、▲1六歩、△4二角、▲7七金、△7四歩、▲同歩、△7五歩、▲同角、△同飛、▲同玉、△8七歩成!、▲7六金、△5四歩、▲6五玉、△8六と!、▲6六金、△8七角、▲5六玉、△7六と!で「金を攻める基本は同じ!図」。後手はとにかく金取り!金取り!金取り!と攻め立てる。先手は見たことが玉形だが、金を攻めるという寄せ方の基本は同じ。分類不能な戦型でも隙を見逃さず、後は基本どおりに金を攻める鈴木五段の攻めが見事だった。
 一方の工藤五段は負けにはなったが「金を攻める基本は同じ!図」から粘り続けた。総手数は152手。つまり、「金を攻める基本は同じ!図」から100手決め手を与えなかったのだ。こんな玉形で、それも鈴木五段相手に。これも見事としか良いようがない。
 本局はお二人共、戦法の優秀さや定跡の知識は気にせず自由に戦っている。「実力者どんな戦型でも力を発揮する!」のだ。

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<第59回 東北六県将棋大会> 青森県代表棋譜集No4 2回戦-1

 先手 船橋 隆一 四段(青森) vs 後手 田部井直史 四段(山形) 戦

この将棋はここが凄い! → 「どこから手を作っていくのか?」

   「ここから後手がリードする!図」    「どこから手を作っていくのか?図」
     
 「ここから後手がリードする!図」を見ていただきたい。この何気ない局面から後手の手順が見事だ。△9三桂!、▲4八飛、△8五桂、▲8六銀、△5五歩!。リーチの長い桂馬で銀を狙い、銀がサイドに寄ったところをセンターから動く。以下、5筋の歩を交換し、△5四銀の好形を築いた。
 その後、「どこから手を作っていくのか?図」となった。今、△8五歩、に▲7七金寄と飛車先を受けた局面。ここでの次の一手を考えていただきたい。
 田部井四段の、「自陣のストロングポイントは何か?」「どこから動くべきか?」「その動きを効果的にするには?」という思考の流れを感じてください。

   「銀を効果的に使う△5七歩!図」     「以下、後手の攻め合い勝ち!図」
     
 「どこから手を作っていくのか?図」から△5七歩!で「銀を効果的に使う△5七歩!図」。後手はサイドからセンターの動きで△5四銀の好形を得た。そこが自陣のストロングポイント。ということは銀が働いている4〜6筋から動けば有利になる。その動きをより効果的にするのが△5七歩!。次に△4六角があるので、▲5七同角。そして、△5五歩で角を目標に銀が進軍していく。以下、▲5五同歩、△同銀、▲6五歩、△5六銀、▲6四歩、△5七銀成、▲2四歩、△同銀、▲4五歩、△9六歩で「以下、後手の攻め合い勝ち!図」。先手の攻めの銀は取り残されているのに後手の銀は成り銀になっている。先手の桂馬が捌けていない。そして、何より後手が先攻している。矢倉戦の典型的な攻め合い勝ちの展開だ。この後は強気に攻めて後手が勝ち切った。
 プロ棋士が「矢倉は組みあがった時点で決着がついている。」とおっしゃっているのを聞いたことがある。これは、実力者にとって矢倉の駒組み勝ちはそのまま勝利につながるという意味なのだろう。ということは、最初の「ここから後手がリードする!図」の前に後手の勝因があるといえるかもしれない。本局は田部井四段の「お手本となる攻め合い勝ちの矢倉戦」でした。

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<第59回 東北六県将棋大会> 青森県代表棋譜集No5 2回戦-2

 先手 本間 瑞生 三段(山形) vs 後手 鈴木 雄貴 五段(青森) 戦

この将棋はここが凄い! → 「どうすればもっと指しやすくなるのか?」

   「居飛穴の玉頭銀への対応は?図」   「どうすればもっと指しやすくなるのか?図」
     
 先手三間飛車vs後手居飛穴から先手が玉頭銀に出て「居飛穴の玉頭銀への対応は?図」。居飛穴党にとって玉頭銀はとても気になる存在だ。ここからの後手の対応を見ていただきたい。以下、▲3四銀、△2二角、▲6八飛、△5五歩、▲6五歩、△8四飛、▲2五銀、△4二銀、▲7八金、△5一金、▲6六飛、△5四飛、▲2六飛で「どうすればもっと指しやすくなるのか?図」。ここから後手はどういう方針で指したら良いのか考えて、後手の次の一手を予想してください。
 互角、もしくはそれ以上になる手がいくつかありそうな局面で、鈴木五段は貪欲にもっと指しやすくなる展開を探っていきます。強者の発想を考えてみてください。

   「駒組みを進展させる△3三角!図」   「もう先手から動いていくしかない!図」
     
 「どうすればもっと指しやすくなるのか?図」から、△5六歩と暴れても後手はなんとかなるかもしれない。しかし、強者は仕掛ける前に貪欲にもっと指しやすくなる展開を探っていく。現時点で玉から離れている方の金→「二枚目の金」は後手の方が働いているが、もっと差をつけることができないだろうか?そこで、△3三角で「駒組みを進展させる△3三角!図」となる。このまま駒組みをして「二枚目の金」が玉に近づいていくにつれ、戦わずしてどんどん後手のリードは広がる。以下、▲7五歩、△2二銀!、▲7六飛、△2四歩、▲1六銀、△2三銀!、▲2六歩、△4一金!、▲2七銀、△3一金!で「もう先手から動いていくしかない!図」。後手は金銀を一手動かすにつれ囲いが進展している。「もう先手から動いていくしかない!図」から、先手は次の△2二金上!をどうしても許すことができない。そこで、▲3六歩から仕掛けていった。しかし、陣形の差が如何ともし難く、後手の快勝となった。
 後手は淡々と駒組みをしてリードを広げ、陣形が整っていない先手から仕掛けさせる。いつでも仕掛けることができる。いつでも仕掛けられて大丈夫。そして、進展性のある局面で指せば指すほど良くなっていく。本局は鈴木五段の強者の将棋だった。

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<第59回 東北六県将棋大会> 青森県代表棋譜集No6 2回戦-3a

 先手 岡部 寛大 四段(山形) vs 後手 工藤 俊介 五段(青森) 戦

この将棋はここが凄い! → 「どこから動くのがもっともリスクが低いのか?」

   「そろそろ先手中飛車が動く!図」  「どこから動くのが最もリスクが低いのか?図」
     
 「そろそろ先手中飛車が動く!図」から、▲7五銀、△5三銀!、▲5五歩、△同歩、▲同飛、△4四銀右、▲5九飛、△5二飛!、▲5三歩!、△8二飛!で、「どこから動くのがもっともリスクが低いのか?図」。▲7五銀に△5三銀!は弱気なようだが、4筋の位を主張した一手だ。以下、銀多伝の好形を築いた。そして、以下△5二飛!と飛車交換を狙い「陣形はこちらの方が上ではないですか?」という後手の強気の問いかけに、▲5三歩!と技で返し「では、この歩を取れますか?」とさらに先手は強気な返答。後手は結局取り切れず△8二飛!とかわした。敵陣に大きな楔が入り、「どこから動くのが最もリスクが低いのか?図」は、まずは先手成功の局面。
 しかし、ここから先手はどういう方針で、次の一手を指したら良いのだろうか?岡部四段の「どこから動くのが最もリスクが低いのか?」という発想を考えてみてください。

   「端から動くのが最もリスクが低い!図」  「ついに端から戦機をつかむ!図」
     
 「どこから動くのが最もリスクが低いのか?図」からの次の一手は▲9六歩!で「端から動くのがもっともリスクが低い!図」。「左桂の活用」と「左香の活用」は、振り飛車党の必修の心得だ。桂馬の活用が見込める今、次に香車を活用を図るのが自然だ。左桂と左香を使うのは玉から遠い分、取られてもリスクが低く、交換できたら上出来、活用できたらラッキーな駒だ。以下、△3五歩、▲9五歩、△4二金、▲6六角、△3三角、▲6五桂、△5五歩、▲7七角、△5四銀、▲6六歩、△6二金、▲9四歩で「端から戦機をつかむ!図」。先手は玉の反対の端を攻め、後手は玉頭に位を取り、随分と攻めているところが違う。しかし、▲5三歩の楔と前進している駒たちがあるため、後は戦機をつかみさえすれば先手は勝負できる。以下、先手に攻め合いに持ち込まれ、後手は千日手で凌ぐしかなかった。
 本局は岡部四段の「左桂の活用」と「左香の活用」が見所だった。これは振り飛車のお手本と言える差し回しだ。

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<第59回 東北六県将棋大会> 青森県代表棋譜集No7 2回戦-3b

 先手 工藤 俊介 五段(青森) vs 後手 岡部 寛大 四段(山形) 戦

この将棋はここが凄い! → 「最強最速の一手で決める!」

   「勝勢にする最強最速の一手!図」     「決着を着ける最強最速の一手!図」
     
 まずは「勝勢にする最強最速の一手!図」からの次の一手を考えていただきたい。
 後手は駒損で暴れるしかなく、次の狙いは△9六桂しかない。そこで、▲8七銀と手堅く指したくなる。しかし、工藤五段はそんな回りくどいことはしない。正解は▲8五歩!で、さらに駒得を広げる最強最速の一手を選ぶ。以下、△9六桂、▲同香、△9五歩、▲同香、△同香、▲同角、△7七香!、▲同桂、△9四銀!、▲9九香、△9五銀、▲同香、△9三歩、▲7六金、△3七角で「決着を着ける最強最速の一手!図」。後手は△7七香!、△9四銀!という勝負手を捻り出すが、先手は冷静に対応し動じない。
 「決着を着ける最強最速の一手!図」から、次の一手を考えていただきたい。後手の急所を突き、あっという間に投了に追い込みます。いろいろな勝ち方がある中でも、工藤五段は最強最速の一手を選びます。

   「最強最速の一手は▲7四角!図」    「強者は最強最速の勝ちを目指す!図」
     
 「決着を着ける最強最速の一手!図」からの次の一手は▲7四角!で「最強最速の一手は▲7四角!図」。まず、穴熊の香車がいない弱点を突くには▲9九香が見える。それでもおそらく勝ちだろう。しかし、香車がいない弱点は他にもある。銀の横の空間には何も効きがない。だからこの地点で王手をかけられると囲いが機能しなくなる。これは美濃囲いも同じである。▲7四角!と次に▲9二歩以下の詰めろをかけられると、持ち駒がない後手は受けがない。以下、△7三桂、▲8四桂まで「強者は最強最速の勝ちを目指す!図」まで先手の勝ちとなった。
 本局は工藤五段の「最強最速の一手で決める!」将棋だった。

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<第59回 東北六県将棋大会> 青森県代表棋譜集No8 3回戦-1

 先手 船橋 隆一 四段(青森) vs 後手 出原 卓朗 三段(宮城) 戦

この将棋はここが凄い! → 「逆転の構図を描く!」

   「先手銀4枚!後手金4枚!図」     「先手銀3枚!後手金4枚銀1枚!図」
     
 「先手銀4枚!後手金4枚!図」を見ていただきたい。金を全て持っていること、銀1枚が遊んでいることを考えると後手がやや有利な局面だ。
 この後、後手は攻め駒は十分あると、△5四金と自陣に投入した。以下、▲6八飛、△7六角成、▲8七銀、△6七歩、▲2八飛、△6六馬、▲2四桂、△2二玉、▲5二銀、△7五桂、▲4一銀成、△同金で「先手銀3枚!後手金4枚銀1枚!図」。金銀の数の差がついた。さらに、桂馬でもう1枚剥がされそう。1枚遊んでいる銀もいるし、先手陣がちょっともちそうにない。この後、後手は「金駒で上から押さえつける」方針で指していけば勝ちになる。
 しかし、ここから船橋四段は見事な逆転の構図を描く。多少の勝手読みでも構いません。こうなるしか逆転はない!という僅かな望みを信じて、次の一手を考えてみてください。

   「先手は上へ逃げるしかない!図」   「敵陣への道がついに出来上がった!図」
     
 「先手銀3枚!後手金4枚銀1枚!図」からの次の一手は▲9五歩!で先手は上へ逃げるしかない!図」。玉の上部に金駒を配置されたらおしまいの先手はとにかく上へ逃げるしかない。そうすれば、上部で遊んでいる成銀や成香が金として働いてくれる。敵陣へは長い道のりだが、▲9五歩!を△9五同歩と取ってくれれば、▲9五角成で強力な守り駒が敵陣への護衛として帰還してくれる。先手はこの後△9五同歩を期待して、とにかく耐え続けるしかない。
 では、▲9五歩!に後手はどう攻めるか?これが意外と難しい。そこで、試しにコンピューターにかけてみた。すると、△6八歩成!、▲同飛、△7九銀!が示された。金駒が多い後手は「金駒で一段目に落とす」→「金駒で上から押さえつける」と考えれば良かったのだ。ここでは、それを効果的にする△6八歩成!があった。本譜は、▲9五歩!以下、△8七桂成、▲同銀、△7九銀、▲9七玉、△7七馬、▲9一飛、△9五歩?、▲同角成!で「敵陣への道がついに出来上がった!図」。▲9一飛を見て△9五歩?とついに歩を取ってしまったが、△9五歩?では△7五金と「金駒で上から押さえつける」方針で指せば、後手の勝ちだったろう。この後、上部に逃げ込んだ先手玉は寄らなくなり、先手の逆転勝ちとなった。
 丁寧に金駒を収集していった出原三段は、逆転の構図を見事に描いた船橋四段に残念な逆転負けとなってしまった。

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<第59回 東北六県将棋大会> 青森県代表棋譜集No9 3回戦-2

 先手 鈴木 雄貴 五段(青森) vs 後手 佐藤 勝哉 四段(宮城) 戦

この将棋はここが凄い! → 「序盤で決定的な差をつける!」

   「何気ない局面だが何かが違う!図」     「後手陣の隙を突くには?図」
     
 「何気ない局面だが何かが違う!図」を見ていただきたい。ここで何かある!と先手の鈴木五段は普通の手で局面を優勢に進める。以下、▲6八角!、△2二飛、▲3六歩!、△4三銀と後手の飛車、銀の働きを悪くしておいて、▲7九金、△7二銀、▲6九金右、△7三桂、▲5七銀、△6五歩で「後手陣の隙を突くには?図」。後手は通常より早めに金を上がっているので、▲6八角!に△2二飛と受けなければならない。さらに、飛車がいなくなった3筋を狙う▲3六歩!に△4三銀と角頭を守らなければならなかった。この、▲6八角!と▲3六歩!で駒の働きに相当差がついた。この間、先手の金銀は連結がよく戦いに備えている。▲6八角!と▲3六歩!でリードした後は再び駒組みに戻る。そして、先手は玉から遠い方の銀(攻めの銀)を左に持って行き、攻めに使ったり守りの銀に変身させれば良い。後手の攻めの銀は中途半端であまり働いていない。だから、先手の攻めの銀が働けば働くほど差は広がっていく。そこで、銀の活用を阻む△6五歩は当然なのだが、ここで後手陣に隙が生じている。
 どこに隙が生じているのか?どの駒を活用すべきなのか?どこから動いて行くのが正しいのか?を考え、「後手陣の隙を突くには?図」での先手からの3手を考えてみてください。

   「駒の働きが大差になっている!図」    「守り金駒3枚!攻め駒5枚!図」
     
 「後手陣の隙を突くには?図」から、▲8六角!、△3二飛、▲6六歩!で「駒の働きが大差になっている!図」。後手陣の隙は斜めのラインが通っていること。だから、先手は角を活用すべきだ。そして、6筋から動いていけば後手の銀は働かない。先手はこの後、▲6八飛で飛車、角、銀が躍動していくのに対して、後手は飛車、角、銀が団子になっていて活用するのに何手かかるかわからない。ここではもう駒の働きが大差になっている。
 以下、△4五歩、▲6八飛、△6六歩、▲同銀、△6五歩、▲同銀!、△同桂、▲同飛、△5五歩、▲同歩、△4四銀、▲6三飛成、△同銀、▲4三金、△6二飛、▲3三金、△同桂、▲6四歩!、△7二銀、▲5四歩で「守り金駒3枚!攻め駒5枚!図」。△6五歩に▲6五同銀!と銀桂交換の駒損の攻めだが、よく考えてみると、攻めの銀と守りの桂の交換になっている。おまけに歩切れにできるのならば、当然の攻め。この後、後手は巻き返しを図る。△5五歩、▲同歩、△4四銀と最も働きが弱い銀を活用するのはさすがである。しかし、▲6三飛成、△同銀、▲4三金とまたも後手陣の隙を衝かれてた。駒を活用するというごくごく当たり前の手を指して隙が生じるということは、その前に差がついていたということだろう。「守り金駒3枚!攻め駒5枚!図」では、拠点の2枚の歩を攻め駒と考えれば、攻めも守りも万全の状態が出来上がっている。さらに未だに後手の銀の働きが弱い。先手大優勢の局面だ。
 本局は、△6三金を見た▲6八角!と▲3六歩!で決着が着いていたのかもしれない。そんな序盤中の序盤で決める鈴木五段は恐ろしい。2戦目と、この3戦目はまさに強者の将棋と言えるだろう。

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<第59回 東北六県将棋大会> 青森県代表棋譜集No10 3回戦-3

 先手 星宮 謙 四段(宮城) vs 後手 工藤 俊介 五段(青森) 戦

この将棋はここが凄い! → 「囲いのどの駒が急所の駒か?」

   「ここで後手に決め手がある!図」     「囲いのどの駒が急所の駒か?図」
     
 「ここで後手に決め手がある!図」を見ていただきたい。敵陣の龍と攻防の角が大活躍し後手が優勢の局面。先手の望みは金駒4枚の囲い。もし、後手が急所を衝いてこなければかなり耐久性がある。しかし、もちろん後手は容赦ない。以下、△5五香!、▲同馬、△同歩、▲7一銀、△9二飛、▲8二金で「囲いのどの駒が急所の駒か?図」。△5五香!が急所過ぎて、先手は▲5五同馬と主力の大駒を切るしかない。そして、金銀2枚を投資して飛車を取りにいくくらいしか後続がない。後手は囲いから出ている状態で、飛車も取られそう。少しあせってしまうかもしれないが、先手の金駒4枚の「囲いのどの駒が急所の駒か?」分かれば大丈夫。後手の冷静な次の一手を考えてみてください。

   「▲6七銀が囲いの急所の駒!図」     「▲6七銀が動けば囲いは崩れる!図」
     
 「囲いのどの駒が急所の駒か?」からの次の一手は△6五歩!次に△6六歩が入れば、先手の金銀四枚の連結は崩れていく。▲6七銀を動かすことが囲いを崩す急所だった。以下、▲9二金、△同香、▲6一歩成、△4二玉、▲4五香、△4四歩、▲同香、△同銀、▲2二歩、△6六歩!、▲6二飛、△3三玉、▲6六飛成、7四桂!、▲6三龍、△5三金、▲6二龍、△2二玉、▲8八玉、△8六歩、▲7五歩、△6六歩!、▲7六銀、△5六香で、「▲6七銀が動けば囲いは崩れる!図」。流れの中で、玉は囲いに入り、攻め駒は急所に利いて後手の勝利となった。
 工藤五段の逃げたり、守ったりしながら、確実に急所を押さえた攻めが見事だった。

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<第59回 東北六県将棋大会> 青森県代表棋譜集No11 4回戦-1

 先手 中川 滉生 五段(岩手) vs 後手 船橋 隆一 四段(青森) 戦

この将棋はここが凄い! → 「大山康晴のように勝つ!」

 「▲4三歩成から確実な攻めがある!図」  「ここで大山康晴のように受けるには?図」
     
 「▲4三歩成から確実な攻めがある!図」を見ていただきたい。後手玉はすぐには潰れないが、▲4三歩成が入ると確実に寄せられてしまう。つまり、余命宣告を受けている玉だ。そこで、後手はもう暴れていくしかない。以下、△5八歩!、▲4三歩成、△3六飛、▲同歩、△2五桂、▲4八金!、△1七銀!で「ここで大山康晴のように受けるには?図」。後手は△5八歩!と細工をした。このままでは飛車に横利きが消えるし、▲5八同飛と取ると△4七金(銀)、△6七金(銀)と打ち込む隙ができる。単純に暴れずにこのような細かいことをしなければならないというのは、おそらく後手が苦しいのだろう。この歩が絶妙に働くとか、先手の読み違いを誘発するとかしないと攻めきるのは大変そうだ。そして、▲4八金!を見ていただきたい。攻め駒が十分と見るや、自陣に惜しげもなく駒を投入する。この縦に金を並べる受けはまさに大山康晴流の受けだ。大山の穴熊退治の流れは「と金を使った確実な攻め」→「穴熊に暴力を振るわせる」→「自陣に金駒を打ち付ける」→「完璧に受けきる」というものだ。本局は「大山康晴vs居飛車穴熊」の典型的な将棋だ。
 そこで想像してみてほしい。あなたは大山康晴という受けの達人だ。そんなあなたなら「ここで大山康晴のように受けるには?図」でどうするか?来週まで大山康晴気分で穴熊の勝負手△1七銀!にどう対応したら良いのか考えていただきたい。

 「上部脱出を阻止し攻めがつながった!図」 「助からないと思っても助かっている!図」
     
 「ここで大山康晴のように受けるには?図では複数の受けがある。
 まずは、▲1七同香、△1九角、▲同玉、△1七桂成、▲2九玉!、△2七成桂、▲2八歩!まで。相手の狙い通りに指しての受けきり。
 次に、▲3八玉、△5九銀、▲4七玉!まで。この上部のと金に近づいて逃げ切り。この玉逃げは、新聞紙上での船橋四段による指摘だ。
 本譜は、▲3八玉、△5九銀、▲5八飛?、△4八銀成、▲同金、△2九角、▲4九玉、△4七歩で「上部脱出を阻止し攻めがつながった!図」。上部脱出を阻止し、まだまだ難しいが攻めの形ができている。後手にとって一番怖いのは、上部に逃げられ「と金」が攻防の駒になること。玉が金駒に近づいていく逃げ方はまさに大山康晴流だ。そして、以前に△5八歩!と細工したおかげで、△6七金を打つことができるようになった。これが打てれば、上部脱出を防ぐことができそうだ。
 以下、▲3八金、△6七金、▲3九金、△3七桂成!で「助からないと思っても助かっている!図」。ここで、▲2九金と角を取ると、△5七金!がある。玉の上部に攻め駒がたくさんいてこれはどうにも助かりそうにない。以下、後手の細い攻めを見事につなげての逆転勝ちとなった。船橋四段は新聞紙上で△5八歩!を「方針を誤った」と振り返っていたが、実は「相手の思考を乱す」一手だったのではないか?この歩が無ければ、どんどん玉は上部に逃げていったのではないか?そう感じさせる妖しい歩だった。
 最後に「助からないと思っても助かっている!図」をもう一度よくみていただきたい。試しにこの局面をコンピューター相手に調べてみた。恐ろしいことに▲1七香と一番働いていない攻め駒を取って受け切れるそうです。それこそ大山康晴気分で以下の変化を考えていただきたい。すべての変化を読みきった時、「助からないと思っても助かっている」という大山康晴の金言が頭に浮かぶことでしょう。

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<第59回 東北六県将棋大会> 青森県代表棋譜集No12 4回戦-2

 先手 佐藤 郁人 三段(岩手) vs 後手 鈴木 雄貴 五段(青森) 戦

この将棋はここが凄い! → 「将棋は馬を作るゲームだ!」

  「▲8七歩と普通に受けられない!図」  「後手はどこから動いて行けば良いのか?図」
  
   
 「▲8七歩と普通に受けられない!図」を見ていただきたい。先手は角道を止めてしまったので、▲8七歩と受けると横歩を無条件で取られてしまう。そこで先手は▲7七金と頑張って受けた。しかし、普通の受けができない局面というのは何かあるもので、以下△8七歩、▲8六金、△8八歩成、▲同銀、△6六角、▲7七桂、△8五歩、▲8七金、△5七角成、▲8三歩、△9三馬、▲9五歩、△8三馬、▲9四歩、△9二歩、▲3六銀で「後手はどこから動いて行けば良いのか?図」。馬ができて、持ち駒の角が効果的な場所に打てそうで、一歩得している後手が優勢なのだろうが、実際問題この後どういう方針で指すのかは悩むところ。この局面での次の一手、そしてその後の展開を考えていただきたい。考えるヒントは
 1 馬の利きで盤上を制圧したい
 2 最も効果的に角を△5七角、△6七角と打ちたい
 3 実は攻防に大いに利いている▲2八飛を極力働かせない
 4 持ち駒に飛車があるので端攻めに注意する
です。これだけのことをこの後、鈴木五段は流れるようにやってのけます。

  「二枚目の馬が確定し後手優勢!図」    「金駒の駒得が確定し後手勝勢!図」
     
 「後手はどこから動いて行けば良いのか?図」からの次の一手は馬を働かせる△7五歩。これは当然として、以下▲1四歩、△同歩、▲1二歩、△3五歩!、▲2七銀、△1二香、▲7五歩、△6七角で「二枚目の馬が確定し後手優勢!図」。途中の△3五歩!が大事な一手で、先手の飛車先を通した状態で△1二同香としてしまうと、▲1一飛、△2二金、▲2三飛成!の強襲がある。また、△3五歩!を▲3五同銀と取ってしまうと△5七角、▲4五銀とかわすと△6七角と後々打たれてしまう。いつでも△4七馬と入られる状態で角を効果的に打たれては先手陣はとてももたない。持ち駒の角の潜在力で▲2七銀と苦しい一手を指させた後は冷静に△1二香。早い手が無くなり桂頭の傷を消すため▲7五歩と指しても△6七角でもう一枚馬を作られる。
 よく「序盤は飛車より角」と言われるが、これは「序盤の飛車角交換は角有利」という意味だ。持ち駒に角が無いのに馬を作られると利きが止められず、複雑な攻めが生じる。ましてや馬二枚あれば盤上を制圧できる。それに対し飛車を手持ちにしても端からの単調な攻めしかない。
 「二枚目の馬が確定し後手優勢!図」以下、▲4八玉、△7六歩、▲5八金、△7七歩成!、▲同銀、△7八角成、▲8八金、△5六馬、▲5七歩、△5五馬、▲3九玉、△7六歩!で「金駒の駒得が確定し後手勝勢!図」。2筋に壁ができているので△7七歩成!という強気な一手も通ってしまう。ここでも先程▲2七銀と引かせた効果が出ている。先手は自陣の傷を必死に消していくが、複数の弱点をフォローしきれず大きな駒損が確定してしまった。以下、後手の快勝となった。
 本局は鈴木五段の強気な踏み込みと丁寧な指し手の組み合わせが素晴らしかった。一見快勝に見えるが、バランスを保てなければ逆転はありえた。ただ、鈴木五段の精密な読みがチャンスを与えなかっただけだ。

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<第59回 東北六県将棋大会> 青森県代表棋譜集No13 4回戦-3

 先手 小山 怜央 五段(岩手) vs 後手 工藤 俊介 五段(青森) 戦

この将棋はここが凄い! → 「大駒は近づいて受ける!」

  「角の利きを活かした次の一手は?図」  「飛車角の攻めをどうやって受ける?図」
  
   
 「角の利きを活かした次の一手は?図」を見ていただきたい。まずはここで先手はどう指すでしょうか?
 正解は▲7三歩!。これを△7三同飛と取ると、▲2二歩と手裏剣が飛んでくる。△2二同玉には▲4二角成がある。大駒の利きを確保しておくと色々な手筋が生じる。▲7三歩!以下、△6二飛、▲9五歩、△8四歩、▲9四歩、△8五歩、▲6八角、△8四角、▲4六角、△5五歩、▲同歩、△6四歩で「飛車角の攻めをどうやって受ける?図」。後手は飛車を6筋に転換し、角道を活かした攻めを狙った。ここで先手はどういう方針で指したら良いのだろうか?ここからの小山五段の受けは絶品です。

    「大駒は近づいて受ける!図」      「自陣がさっぱりして先手勝勢!図」
     
 「飛車角の攻めをどうやって受ける?図」から、▲7六金、△4五銀、▲7九角、△6五歩、▲7五銀、△7三角、▲6四歩、△7四歩、▲同銀、△6四角、▲6五金、△3一角、▲6四歩、△7二金、▲4六歩、△5六銀、▲5四金、△9八歩、▲同歩、△9七歩、▲同歩、△6四角、▲6三歩で「大駒は近づいて受ける!図」。金銀がコンビを組んで一歩一歩前進し、飛車角に近づいていき押さえ込んでいった。大駒のみの攻めは金駒だけで近づいて受けられるのだ!ただし、正確な読みがあればである。読みに抜けがあったあらあっという間に終局である。
 この後、後手は角を切っていくしかない。以下、△9七角成、▲同桂、△5二飛、▲6一角、△5一歩、▲6七銀!、△同銀、▲同金で「自陣がさっぱりして先手勝勢!図」。この中で▲6七銀!に注目していただきたい。守り駒を攻め駒にぶつけていく一見意表の一手ではあるが、交換して局面を見ると、先程と景色が随分違う。▲6七金がいるため上部の利きがかなり増えた。そのおかげで先手玉はもう捕まりそうにない。これ以降も後手に少しずつ無理をさせて攻めを細くしていき先手快勝となった。
 この直後、小山五段は偉業を達成するのだが、本局はさすがの内容だった。何度も繰り返し見ていただきたい棋譜だ。

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<第59回 東北六県将棋大会> 青森県代表棋譜集No14 5回戦-1

 先手 渓  康広 三段(福島) vs 後手 船橋 隆一 四段(青森) 戦

この将棋はここが凄い! → 「と金ができない時は桂香の活用!」

  「ここから桂香の攻防が始まる!図」   「こんな局面から先手は寄せ切る!図」
     
 先手が▲4一馬と寄った「ここから桂香の攻防が始まる!図」を見ていただきたい。対抗型でお互いに飛車角が成りあっている。しかし、両者と金はできそうにない。となると、桂香をどのように使うかで勝敗が決まってくる。ここからの意表をつく桂香の使い方が本局の見所だ。
 以下、△7一香!、▲8二龍、△7二香打!、▲5五桂!、△3三金、▲4二銀、△2六桂!、▲3三銀成、△同馬、▲7一龍、△5五馬、▲5一龍、△1八桂成、▲同玉、△3三馬、▲4二金、△2二銀打、▲5三龍、△4四桂で「こんな局面から先手は寄せ切る!図」。香車二枚でバリケードを作ったり、馬を天王山に呼び寄せそのバリケードを突破しようとしたり、△2六桂!と思わぬところから攻めが飛んできたりと、桂香の意表の攻防が繰り返されている。
 さて、「こんな局面から先手は寄せ切る!図」、先手からの三手を考えていただきたい。あっという間に先手が寄せ切ります!

  「桂香の二連続犠打で後手陣崩壊!図」   「桂香の活用で先手が寄せ切った!図」
     
 「こんな局面から先手は寄せ切る!図」から、▲3五桂!、△同歩、▲3四香!で「桂香の二連続犠打で後手陣崩壊!図」。この香車は取るしかない。以下、△3四同玉、▲3二金、△同銀、▲同馬、△同馬、▲3五歩、△2五玉、▲2六銀、△1四玉、▲1五銀、△同玉、▲1六歩、△同玉、▲2六金で、「桂香の活用で先手が寄せ切った!図」。金銀3枚+馬の強力な囲いをこれだけきれいに寄せることができるんだ!と驚きの手順。
 本局は渓三段、船橋四段のお二人共、桂香の面白い使い方が多数あった。と金ができない局面ではこういう手筋を捻り出さなければいけないということだろう。

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<第59回 東北六県将棋大会> 青森県代表棋譜集No15 5回戦-2

 先手 鈴木 雄貴 五段(青森) vs 後手 堀井厚太郎 四段(福島) 戦

この将棋はここが凄い! → 「超速▲3七銀+穴熊の弱点を突く!」

   「ゴキゲン対超速の相穴熊戦!図」     「超速▲3七銀+穴熊の弱点を突く!図」
     
 「ゴキゲン対超速の相穴熊戦!図」を見ていただきたい。ここから、▲7五歩、△同歩、▲同角、△7三金、▲6五歩、△同歩、▲4二角成、△同飛、▲5一角、△2二飛、▲3七桂、△7二金、▲6四歩で「超速▲3七銀+穴熊の弱点を突く!図」。ここで次の一手を考えていただきたい。先手の弱点を突き、その後ペースを握る一手が出ます。高段の方は、銀対抗の先手後手の違い、どういう展開が後手は望ましいかまでイメージしてください。

 「5筋位取りを活かし、桂頭を狙う!図」   「銀の働きの差が大きく後手優勢!図」
     
 「超速▲3七銀+穴熊の弱点を突く!図」からの次の一手は△5四角!で「5筋位取りを活かし、桂頭を狙う!図」。角交換系の振り飛車では▲5六角や△5四角という符号をよく見る。桂頭を狙う好位置になるからだ。本局では5筋の位を取っている後手だけがこの筋を使うことができる。この手から後手はペースを握る。以下、▲9五角成、△3六角、▲6五飛、△4七角成!、▲6六飛、△6五歩、▲7六飛、△7五歩、▲8六飛、△5三銀!で「銀の働きの差が大きく後手優勢!図」。△3六角〜△4七角成!と裏に回りこまれると先手はどうにも受けづらい。飛車で何とか受けるが、銀桂が負担となって押さえ込まれてしまった。そして、△5三銀!が感触の良い一手!銀対抗で対等の働きをしていたが、ここで大きな差がついた。後手が5筋の位を取っているので銀を引くことができるが、先手はそれができない。これこそ後手にとって最も望ましい展開だ。これ以降、先手は右の銀桂を使うよう必死に頑張るのだが、少しずつ無理をしなければならない。無理をすれば反動が必ずあり、先手は支えきれなくなった。
 本局は堀井四段の5筋位取りの活かし方が素晴らしい一局だった。ちなみに、最後は相穴熊らしくない凄まじい玉頭戦になります。ぜひ鑑賞してみてください。

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<第59回 東北六県将棋大会> 青森県代表棋譜集No16 5回戦-3

 先手 小野内一八 四段(福島) vs 後手 工藤 俊介 五段(青森) 戦

この将棋はここが凄い! → 「細い攻めをつなげ入玉を防ぐ!」

  「三枚の攻めをどうやってつなげる?図」  「どの駒を攻めれば入玉を防げるのか?図」
     
 まずは「三枚の攻めをどうやってつなげる?図」を見ていただきたい。先手の攻め駒は▲3三歩、▲4五桂と持ち駒の角と三枚しかない。ここで次の一手は何でしょうか?
 正解は▲5三角!。後手の角が利いているところに打ち込むだけに思いつかない一手だ。以下、△5三同角、▲同桂、△同玉、▲3一角!、△4二金、▲2二角成、△3三金、▲3四歩、△同金、▲3二馬、△4三桂、▲4五金、△同金、▲同歩、△同銀、▲2三馬、△3六角、▲3三馬、△3四金、▲1一馬、△2九飛で「どの駒を攻めれば入玉を防げるのか?図」。先手は何とか三枚の攻めをつなげ続けてはいる。ただ、入玉を防ぐのがかなり難しそう。馬と飛が頑張ってはいるが、△2八歩→△3三歩とされるともう何もできなさそう。
 ではここで次の一手をお考えください。この一手が流れを変え、なんとここから先手が寄せ切ります。ヒントは「どの駒を攻めれば入玉を防げるのか?」です。

  「銀を手に入れれば入玉は防げる!図」   「側近の金を攻めて寄せが見えた!図」
     
 「寄せは側近の金を狙え!」という言葉があるそうだ。後手の陣形を縦に長い囲いと見た場合、側近の金は△3四金。「どの駒を攻めれば入玉を防げるのか?図」での持ち駒は香車と金。この局面では、この二枚は金を攻めるには不向き。縦に長い囲いなので香車で金は攻められない。また、金で金を攻めるのはそもそも効率が悪い。では金を攻めるためにはどの駒があれば良いか?それは銀!
 「どの駒を攻めれば入玉を防げるのか?図」からの次の一手は▲3八香!この瞬間は飛車の横利きがあるのでぎりぎりこの手が通り、銀を手に入ることができた。以下、△2五桂、▲3七香、△3七桂成、▲3五歩!で「側近の金を攻めて寄せが見えた!図」。▲3五歩!に△3五同金は▲4四銀、△4四金は▲6二銀。銀が持ち駒に加わったことで攻め味が格段に広がった。▲3五歩!以下、後手は△4八歩成と攻め合いに出たが、側近の金がいなくなってしまったのが大きく、ほどなく寄せられてしまった。
 工藤五段は相居飛車で本局のような戦型分類不能な戦法を多用している。4月に青森に帰ってきてこの戦法を披露され、青森将棋界の多くの方が意図も対策もよくわからなかった。「初見で対応は難しいのではないか?」とおっしゃっている強豪もいた。しかし、前局の小山五段、本局の小野内四段と連敗。しかも、工藤五段ほどの地力があってもだ。青森を代表する方々でもなかなか勝たせてもらえない、東北六県大会は本当に厳しい。

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<了>

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